恣意の心臓

標準語を喋る関西人です。独り言。

名前をつけて

 

あるところに男の子が生まれた。

名前はまだない。

 

名前のない男の子は学生になった。

 

「はい、そこの君、この問題答えなさい」

男の子の名前は今日から「君」になった。

 

君は社会人になった。

 

「お前こんなこともできねえのか!」

君の名前は今日から「お前」になった。

 

そんなお前に嬉しいニュースが。

なんと頑張りを認められ、役職を貰えた。

 

こうして晴れてお前は部長に。

「部長、お疲れ様です」

お前の名前は今日から「部長」になった。

 

目まぐるしい日々だが私生活はとんとん拍子に進み、適齢期と言える時期に結婚した。

 

「あなた、おかえりなさい」

部長のあだ名は「あなた」になった。

 

愛おしい小さな命の泣き声が響いた。

「ちょっと!パパなんだからあやすくらいしてよ!」

部長のあだ名は「パパ」になった

 

そして名前が「課長」になったり

あだ名が「お前」になったりと

時折化けてみせた。

 

俺ってなんていい名前をもらったんだ。

幸せな人生を歩めて実に幸せだ。

 

 

しかし立てかけてある卒塔婆は白紙だった。