恣意の心臓

標準語を喋る関西人です。独り言。

愛は

 

慣れた手つきで文字入力をする。

「お父ちゃん久しぶり!元気に」

 

打つ手を止めた。文字を全て消した。

ショートメッセージのアプリを閉じ電車を降りた。

 

2月ももうすぐ終わる。

春が本当にやって来るのか不安になるくらい指が悴む。

 

再び、ショートメッセージのアプリを開く。

去年の10月2日に父との会話が途切れた。

仕事を早急に辞めてしまったことはまだ言っていない。

 

私は別に父が元気かどうかなんて知ったこっちゃない。

元気かどうかよりただ生きているのか知りたかった。

もしも何かしらのメッセージを送っても返信が返って来なかった時のことを考えると怖くて堪らない。

 

膝より少し短いスカートにロングコートを羽織って街を歩く。

当たり前だが足が折れてしまいそうなくらい風が冷たかった。

 

早く暖かくなってほしいと思う反面、

春が来てほしくないとも強く願った。

 

希望を抱いて上京する若者なんて見たくなかった。

東京に来れば夢が叶うと思っている人間

東京がどうにかしてくれるはずがない。

きっと彼らはそれを分かっている。

 

それでも私はそんな彼らとすれ違いたくなんかない。

 

でも彼らは甘え上手だから結局東京とは上手くやっていけるのだろう。

それ以外の人間はどこか遠くへ。

 

東京へ行ったことのない人間より、東京に愛されなかった人間の方が壊れやすい。

だけど私は後者を愛す。

 

履いていた靴の底があまりにも薄く、裸足と変わらないんじゃないかと疑ってしまう。

イヤホンから流れる音楽が街のBGMとなって少しだけ私を主役にさせてくれる。

 

今日はコンビニに寄らないで帰ろう。

そして化粧も落とさずに可愛い私のままベッドに沈むのであった。